「太巻きと細巻き」お持ち帰りできるのは…?
こんにちは。京都の巻寿司大使・岩佐優です。
良い天気が続く一方、朝晩本当に寒くなりました。
京都でも10℃を切るところまで下がるようになりましたが
寒いところの皆さま、お変わりなくお過ごしでしょうか。
ついこの間まで、ちょっとでも冷やしたもの、涼しげなものをと
店の献立を考えてお出ししていたのに
湯気の立つ煮込みなどをお作りいたしますと、
皆さんのお顔がほころんでいます。
やがて霜降(そうこう)は訪う(おとなう)事でしょう。
私が小さいころは、今のように食べ物が溢れていませんでした。
漁師の家でしたので魚はたくさんあっても他の物はわずかでした。
母は食べ盛りの私たち四兄弟の食事には大変苦労したと思います。
そんな母がかなりの頻度で作ってくれた料理に「巻き寿司」がありました。
具材は高野豆腐・カンピョウ・椎茸・三つ葉・デンブくらい。
中でも大好きだったのは高野豆腐です。
母はいつも本当に大切そうに一枚一枚の高野豆腐を、
両手で優しく包むようにしてだしを絞っていました。
薄味でありながら、噛むとじわぁと甘い出し汁が口の中に広がり
まるで新しい宇宙の世界に飛び込んだようでした。
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時は変わって、食べ物が溢れている現在。
お寿司という食べ物は今でも日本の国民食に近いですね
外食業の売り上げランキングの3位がラーメン、2位が焼肉、
そして2位を大きく引き離したダントツの1位が寿司ですから、
これは間違いないでしょう。(※データは「ディナー・サーベイ」のインターネット調査より)
私の店は寿司の持ち帰りは何かの事情がない限りお引き受けしていません。
握って3分も空気に晒しておいたら寿司は「別のもの」になってしまいます。
それはもう職人<店主>が意図したものとは違う食べ物なんですね。
「握った時が最終段階」で「握った時が終わり」なんですね。
その点、太巻きは特別です。
切らずにそのままお包みしてお持ち帰りいただき、
お客様が食べる直前に自らで切っていただくのであれば、
芯の具材料とシャリがほどよくなじみ美味しくなります。
ただし切ってしまうと、切り口からは水分が蒸散し、
お米がパリパリになってしまいます。
しまいには「ガラスの板」みたいになるんですね。
切った巻寿司は早めにお召し上がりいただくのが一番です。
一方、細巻はというと、海苔にシャリを置いた瞬間から海苔は湿気ていきます。
だらだら巻いていますと、
切る時にはもう、パリパリ感なんて無い「巻きもの」になってしまいます。
細巻の中でも人気なのが「カッパ巻」ですが、
中に巻くキュウリの調理の仕方によって、
例えば、モロキュウか縦割りか打ちキュウ(包丁で小口切りにした胡瓜)では
味も全然ちがってきます。
打ちキュウにしたって「かつら剥き」と「転がし」は食感が違います。
「転がし」とは、キュウリやシロウリなど材料のもつ色を美しく仕上げたいときに、
まな板の上に置いて塩をふり、手のひらで押さえながら転がす方法のこと。
私は、この2つの調理法の使い分け方がわかるまで、
迷いながら何度も試行錯誤を繰り返しました。
そうやってキュウリを調べたことが「食材を知る」一歩になりました。
「料理っていったい何だろう?」「お寿司ってどんな食べ物なのだろう」
と考えることは料理をするものにとってとても大切なのだと感じています。